キャプテン

チャンプ

チャンプ  ちばあきおの代表作の一つといわれているこの作品は、田舎の山小屋からはじまる。谷津田太一少年は、山小屋でじいさんと二人で暮らしていた。客の案内と荷物運びが主な仕事である。この山小屋に日本ランキングボクサー二人がトレーニング合宿にきたことから、太一の人生が変わっていく。ボクシングに魅せられた太一は、世界チャンピオンをめざして上京する。そして寿ジムに入門し、昼は、自動車部品工場で働きながら、ボクシングにはげむ。やがてプロテストも合格、プロデビュー戦のフライ級四回戦も、新人殺しといわれるブル・石黒をKO。有望新人という評価を得て、ランキングボクサーをめざしていく。

 この作品は一人の少年がボクシング界に入って、ひとつの足場を作ったところまでである。だからサクセスストーリーというよりも、努力の物語だといったほうがいい。

 この作者の多くの作品に見られることだが努力しない者に成功者はいない。人知れない努力の結果に温かい歓声を送っている。

 太一の場合も、山小屋の荷物運びで自然に鍛えられた筋肉に、一人前のボクサーでもつらいトレーニングを、冬の雪の中でやってきた結果として、スタミナと筋力というごほうびを与えている。テクニックにしても、おぼえの悪い太一は、回数でおぎない身につけていく。ジムの毎日のきめられたトレーニングにも、太一は、ただ流されてやるのではなくこれでいいのかと疑問を持つ。疑問を持つということは、前進したいという前向きの姿勢があるからだ。疑問をもったままでは心がはいらない。太一は一つひとつ解決しながらやっている。そういう意味でこの作品は努力物語である。

 登場人物の一人ひとりを愛し、作品の世界を大切に描いていく作者の筆による太一は、少年読者にとって等身大の仲間として、″太一よ! 世界チャンプをめざせ!″と心から応援したくなってしまう。絶筆となった作品。

「月刊少年ジャンプ」(集英社)1984年(昭和59年)4月号から11月号に掲載

目次 作 品 タ イ ト ル 掲 載 誌 名作集 文庫版
第1話 山小屋にボクサーがやってきた!! 月刊少年ジャンプ1984年 4月号 第1巻 第1巻
第2話 ボクサーにあこがれ とつぜんの上京 月刊少年ジャンプ1984年 5月号
第3話 チャンプにむかって練習開始!! 月刊少年ジャンプ1984年 6月号
第4話 好ライバル桜庭の挑戦!! 月刊少年ジャンプ1984年 7月号
第5話 ドキドキの第一関門 プロテスト突入 月刊少年ジャンプ1984年 8月号 第2巻
第6話 会長みずからの猛特訓!! 月刊少年ジャンプ1984年 9月号 第2巻
第7話 新人殺しのファイター ブル・黒石 月刊少年ジャンプ1984年10月号
第8話 息をのむ 白熱の最終ラウンド 月刊少年ジャンプ1984年11月号

収録コミックス
発 行 日 作 品 タ イ ト ル 発行社
1985年 1月20日 ちばあきお先生追悼号『ちばあきお チャンプ』 集英社
1985年 8月15日 ジャンプ・コミックス・デラックス 『チャンプ』 集英社
1994年10月24日 『ちばあきお名作集 チャンプ1 太一、上京す』 ホーム社
1994年11月23日 『ちばあきお名作集 チャンプ2 激闘!!デビュー戦』ホーム社
2004年 3月23日 チャンプ 1 ホーム社
2004年 3月23日 チャンプ 2 ホーム社
2006年10月 1日 月刊コミック特盛『チャンプ』 ボクシングとの出会い編 ホーム社
2006年11月 1日 月刊コミック特盛『チャンプ』 緊張のプロデビュー編 ホーム社

 『キャプテン』を描くペンをおいてから約5年間の月日が流れ、久々のちばあきおさんのスポーツマンガで、ちばあきおさんの絶筆となったこの作品、わたしは大ファンでした。この『チャンプ』は第1話〜第8話からできていますが、最後の第8話は、ちばあきお先生の下絵をもとに、チーフアシスタントの高橋広先生が仕上げました。
 あきお先生のどの話でも言えるのですが、終わり方が読者の想像力に任せるところがあります。この『チャンプ』も初戦をKO勝ちしたところで終わっています。亡くなってしまったことで最終話になってしまいましたが、読み切り漫画の傑作だと思います。
 この作品の原作者に名を連ねている「七三太朗」さんはちばあきおさんの弟にあたる方です。名前こそ表に出てきませんでしたが、かなり多くの作品で共同作業をしていたそうです
 でも太一が観客のみんなになんども言っている「ども…ありがと…」があきおさんの読者に向けての最後の言葉みたいで絶筆作として読むと少し悲しくなります。(Oz)
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