おなじ苦しみをもつ仲間――弟・あきおのおいたち
漫画家 ちばてつや
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あきおは、わが千葉家、男ばかりの四人兄弟の三男坊だ。終戦もまぢかい昭和十八年、満州(現在の中華人民共和国の北東部)の奉天で、仮死状態でうまれた。二キロそこそこの未熟児で、医師がさかさにつるし尻をたたいてはじめて″ヒー…″とかぼそき産声をあげたという。
誕生時のハンデがたたってか、現在にいたってもあまり成長のきざしはみられず、いまだに小学生ごとき童顔風情がぬけないままでいる。体つきも、じつに華奢で繊細である。
しかし、どうも考えてみるに、彼は四人兄弟のうちでいちばん精密につくられていたらしい。あまり頭のよくない兄弟にかこまれて育ちながら、学校の成績はつねに上位をゆずらなかったし、反射神経や運動神経も、まずまず人後にはおちない。ラジオや時計などは、じつにたやすく修繕してのけるし、やたらダイヤルや計器のついたオーディオセットなどを、鼻歌まじりにいじくりまわす。紙芝居のイモアメをしゃぶり、ベーゴマにうつつをぬかしていた下町育ちの兄弟にまじって、電気をいじり、クラシックギターをつまびいて、ただひとり、貴公子然としていた。
そんな彼が、学生時代からむりやり兄貴の仕事を手伝わされているうちにいつの間にかこの世界にはいってしまった。
ところが………いざいざマンガが本業となるや、とたんに不器用になった。たあいのないひとコマに必要以上にこだわり、悶々と苦しむ。カビのような不精ヒゲがこけた頬にちらばり、ドテラだかハンテンだかを不格好にまとって、ぜんそくもちのじいさんがゲリしたような顔で、のそのそ部屋を動きまわる。
そんな姿をみるたび、この世界にひきいれてしまった罪を深く感じ――反面、同じ苦しみをもつ仲間を、身ぢかな弟に得た喜びを強く感じるのである。