親子で楽しむ130冊
キャプテン
ふしぎトーボくん
チャンプ
キャプテン
野球部のキャプテンというものを描いたはじめての作品だといえるだろう。ちばてつやの弟ちばあきおの最初の長編もので、 素朴であたたかさに包まれた野球マンガだ。
墨谷二中に転校してきた谷口は、野球部に入部した。前の学校では二軍の補欠だったが、「この学校だったら、なんとかやっていけそうだ。……」 と思ったからである。
そしてレギュラーになれるかもしれないと思う野球技術しかなかったのに、キャプテンに選ばれてしまったのだ。 谷口のユニフォームを見た野球部員たちが、名門校の野球部出身だと誤解したからである。
二軍の補欠でしかなかった谷口が、キャプテンという重責を背負って、チームのメンバーと一歩一歩、前進していく姿がいい。 時にはユーモアを、時には涙をもって、見るものに感動を与えてくれる。
ここには根性とかしごきはない。そしてライバルというものもいない。 いつも強豪チームとの勝負に明け暮れはするが、ともに野球をするもの同士の友情がうたいあげられていくのである。 それがあたたかくて気持ちがいいのだ。
キャプテン谷口にはじまって、丸井、イガラシ、近藤とつながっていく。 とりわけ谷口のキャプテン時代が胸にひびく。谷口の努力と、チームが日本一に輝いていく時代だからだろう。 人間性あふれる野球マンガなのである。
(石子)
ふしぎトーボくん
人と付き合うことがニガテで、口数の少ない少年トーボ。 しかし彼は、動物や宇宙人など、どんな生き物とも会話ができる、不思議な力を持っていた。 そんなトーボが、施設から二年ぶりに帰ってきたところから、この物語は始まる。
靴の修理が仕事の父は、人間の友達をつくるように励まし、トーボもそれに応えようと頑張るのだが、 悪ガキたちにからかわれて大ゲンカになってしまう。 その様子を見守る、家に住み着いているネズミや、近所の犬や猫がほほえましい。
ある日、噂を聞いて、インコのキズを治してもらおうとやってきた、ユリ子との出会いで、トーボの生活もにわかに活気づく。 通い始めた小学校での、心強い味方であり、ちょっぴり、憧れの存在でもある。 担任の花岡先生も、とまどいながらもトーボの個性を認めようとしていく。 トーボも、クラスメイトたちとの関わりや、動物たちを励ましたり、励まされたりする中で、色々なことを学んでいくのだ。
一話ごとに読み切りの形でストーリーは進んでいくのだが、中には、飼い主にいじめられて、トーボの所に身を寄せる、猫や犬の話もある。 動物の目線でも描かれ、動物愛護のメッセージにもなっている。
人と違っていてあたりまえ、みんなそれぞれ、いいところがあるじゃないか…そんなふうに励まされて、あったかい気持ちになる作品である。
(和田)
チャンプ
山奥の少年がボクシングのチャンピオンをめざしていく成長の物語である。 しかし試合が中心ではなくて、主人公谷津田太一とそのまわりの人たちとのかかわりあいを涙と笑いでつづっていく温かな人間ドラマなのである。
山奥のバス停から千メートルも登ったところに太一はじっちゃんと暮らしていた。 そこにメキシコ遠征試合のための高地訓練で選手たちが合宿にきた。迎えた太一が食糧や選手たちの荷物を背負って山登りしてもびくともしない。 コーチたちはそんな太一に驚き、太一は殴り合いのようなボクシングをはじめて見ておもしろいと思った。 こういう出だしからたちまち太一の人間像に魅せられてしまうのである。 合宿期間が終わって下山する時、トレーナーは太一に「その足腰とねばり強さがあるんだし日本チャンピオンにしてみるよ」と言った。 そのひとことが太一の人生を変えてしまった。
ぼうっとした感じの太一が、時にはユーモラスな言動で笑わせる。 太一の日常生活が淡々と描かれて、まわりの人たちが太一に影響されていく。 チャンピオンとして第一歩を印したところでこの作品は突然中断した。 ちばあきおが急死したからである。 ボクサーとしてきびしい修練を積んで太一はやがて大チャンピオンになったことだろう。 この作品はたとえ中断しても太一というやさしさとゆとりのある人間像を永久にきざみつづけている。
(石子)