キャプテン 漫画家 赤塚不二夫さん

作品の底に流れるあたたかさ

漫画家 赤塚不二夫

 あれは、あきおちゃんが亡くなる二〜三か月前のことだったろうか。
 手塚賞・赤塚賞の受賞パーティーがあり、その席で、妙に沈み込んでいるあきおちゃんの姿を見かけた。華やかな会場にそぐわない感じがして「元気なさそうじゃないか。どうしたの。今度、一緒に飲みに行こうよ」と声をかけた。普段の私は、同業者を誘うことなどほとんどないのだが、その日はどうしても声をかけたくなるような雰囲気が、彼にはあった。
 その時彼は、例の人なつっこい顔で「いいですね。楽しみにしていますよ」と言ってくれたが、結局その時に会ったのが最後になってしまい、今でも心残りとなっている。
 彼のお兄さんのてつや氏とは古くからの知り合いで、あきおちゃんのことも、若い頃から知っているが、その当時はまさかお兄さんのように漫画家としてデビューするとは思っていなかった。それが、あれよあれよという間に人気作家になり、お兄さんとはまた違った自分の世界を創り上げたのだから、本当にびっくりした。
 兄弟そろって漫画家になることだけでもすごいことなのに、二人とも大勢の読者の支持と共感をかち得たのだから、これは奇跡に近いことだと思っていた。
 私は、あくまで自分独自の作品を描いていたいという気持ちから、他の漫画家の作品はほとんど読まないのだが、それでもあきおちゃんの作品には、何か親しみのようなものを感じていた。彼の作品はあだち充氏の作品に似た面があったが、もっとあたたかさを感じさせるところがあり、大先輩の寺田ヒロオ氏に通じるものがあった。
 そういえば、私もちばさんご一家も、旧満州の奉天出身ということで、ご一緒に昔の家を訪ねたことがある。当時はもちろん知らなかったが、私の家とちばさんご一家が住んでおられた家とは、直線距離にして百メートルと離れていなかったのにはびっくりした。
 私がてつや氏はもとより、あきおちゃんの人柄や作品に親しみを感じていたというのも、あるいは遠い昔に近所同士だったということが、あるのかもしれない。

(「ちばあきおのすべて」回想ちばあきおより)

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