漫画家 水島新司
あきお君、君と別れて丸十年になるんだね。今でも君のいたチーム「ホワイターズ」と試合をする度に思い出すよ。君との交流はほとんどが野球場だったね。年齢よりはるかに童顔の君のハツラツとしたプレーが、今でも鮮やかに思い出されるよ。人の良さ、明るさ、そして生真面目さは後にヒットした『キャプテン』『プレイボール』の作品にそのまま出てきて、何かすごく嬉しかったよ。ひたむきに野球を愛し、取り組む少年たちの姿を実に丁寧に描いていた。ボクと同じ野球物でも、まるで違った野球の世界を君は描いてくれた。ボクの描けない手法だけにショックだったけれど、その何倍も嬉しかった。君とボクで増やした野球ファンは数知れないと自負しているよ。その君の力を今ほど借りたいと思わぬ日はない。
実は昨年、プロサッカーのJリーグが誕生した。すごい盛り上がり方でね。野球界はもうあおられてオタオタするばかり。プロ野球の観客も減ってきた。とりわけ大ピンチなのは野球を始めようという少年達の数が減って来てる事なんだ。君の描いて来た小・中学生の野球人口が激減してるんだよ。子供達に野球の面白さを伝えるには野球漫画が一番だ。これはすごく大きな役割を持っていると思うんだよ。君はアマチュア野球の世界、ボクはプロ野球の世界で野球ファンを増やして行こうといつも思って来た。いみじくも昭和52年の第22回小学館漫画賞で君は『キャプテン』『プレイボール』で少年向け部門で受賞、ボクは『あぶさん』で青年向け部門で受賞した。これは偶然とは思えなかったんだ。この時二人に野球を広める使命が与えられたとボクは思った。今、野球漫画はあってもヒット作が出てこない。どうにも君が恋しいんだ。いつか君にいい報告が出来るよう、もう一度ボクは頑張ってみるよ。ボクがエラーすると君はいつも「野球を甘く見てる」としか手くれたけど叱ってくれたけど、この言葉を肝に銘じながら頑張るよ。天国から見ていてくれよな。
(「ちばあきおのすべて」回想ちばあきおより)