キャプテン 漫画原作者 武論尊さん

笑顔…時にはそれが怖かった

漫画原作者 武論尊

 もう10年になる……。
 私の中で、あきおさんは41歳のままの笑顔で滞まっている。
 この時期が来ると、いつも若干の痛みとともにあきおさんを想い出す。41歳をいつの間にか越して、あきおさんの創作活動何分の1かの姿勢、苦しみで原作を書き続けている自分への疚しさがある。
 小さな身体でいつもニコニコと人なつこく笑っていたあきおさん。でも私にはその時にその笑顔が怖かった。笑顔の中に、私の中の人間的な俗っぽさを見抜く眼が光っていた……。
「ブゥ(あきおさんは私をこう呼んでいた)…、人間、少し売れたからといって偉くなったらダメだぞ! おまえはすぐに調子に乗るからな…」
 ようやくヒット作が出、有頂天になっていた私に、この一言は効いた。この一言がなかったら、今でも充分にワガママな私がどうなっていたか……想像に難しくない。
 思えば、あきおさんには″人間性″″社会的なルール″へのこだわりが常に在った。それもごく自然に……。
「ブゥ…、オレは人間の好き嫌いはあまりない。けど、ゴルフでズルする奴はダメだ…。人の見ていない所でポンとボールを動かす奴…、それがどんなにイイ奴でもオレはダメなんだ…」
 野球でもそうだった……。審判の判定には、それがどんなに自分に不利な判定でも笑いながら従った。定められたルールの中で一所懸命に楽しむのがあきおさんの生き方であり、人間はそうあるべきだと信じていた。
 なろうとしてなれるものではない。一番近くに住み、酒も飲み、一番頭を悩ませた後輩でした。10年たっても、その後輩は相変わらず俗っぽさから抜け切れずに、さほどの成長もなく暮らしています。
 この後輩はまだまだです。迷惑でしょうが、もう少しの間、座右の人でいて下さい。あきおさんの怖い笑顔があるうちは、この後輩はもう少し頑張れそうです。

(「ちばあきおのすべて」回想ちばあきおより)

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