タレント 武田鉄也
野球漫画といえば、必ず魔球や天才少年が出てきたものだが、ちばあきおさんの作品には魔球も天才も登場してこない。当時、このことが逆に新鮮だった。絵柄も白っぽい感じで、素朴な味わいがあった。お兄さんのちばてつやさんに比べれば派手さはなかったが、また別の魅力があり、なんとすごい兄弟だろうと思う。
すごい兄弟ということでは、お二人とも作品の中に登場する平凡な労働者を描くことにかけては、まさに天才的である。どこにでもいそうな労働者達なのだが、お二人の手にかかると圧倒的な存在感が出てくる。とくにあきおさんの作品では″『キャプテン』の谷口くんの父親をはじめとして、どこにでもいそうな人物なのだが、その説得力は群を抜いている。
そして、作品全体に流れる清潔感――洗濯物のにおいを感じさせるような清しさは、あきおさんの作品の際だった特徴ではないかと思う。
当時、『キャプテン』や『プレイボール』が、なぜあれだけ支持されたのかを考えてみると、登場するキャラクターは身の回りの同級生などを思い起こさせるものがあり、それが共感を呼んだのではないか。流れる汗が快感として伝わってくるようなスポーツ少年は身近にたくさんいた。そういう手触りの感じられるキャラクターが、読者の心をつかんだように思う。
私も、いま漫画の原作を手掛けているが、それだけにあきおさんのキャラクター作り、いつまでも古びない作品作りには驚かされるばかりだ。もう少し長くあきおさんの作品が読みたかったと、残念でならない。
(「ちばあきおのすべて」回想ちばあきおより)