キャプテン まんが編集術 西村繁男著 白夜書房発行

まんが編集術

西村繁男

・『プレイボール』( ちばあきお )これは野球まんがの永遠の金字塔になってしまったわけですけど。

 金字塔はむしろ『キャプテン』でしょうね。作品の出来としては『キャプテン』だけど、 やっぱり『プレイボール』の方が、週刊でやったから読まれていますね。 コミックスの部数も大きいから、『プレイボール』の方が印象は強くなってるけど、 やっぱり『キャプテン』ですよ。

・でも、たとえば梶原一騎さんの『新・巨人の星』みたいな感じで、一度終わっちゃった主人公をもう一回復活させると、 だいたいトーンダウンするものですが、それをさせなかったのがすばらしいと思いますね。 『アストロ球団』も『巨人の星』もいいんですが、一方でこういうまんがもあるんだなあって、 目から鱗が落ちました。

 そうなんですよねえ。

・一番最初に読んだ時、まあヘタクソな絵だと思いましたが、読んでるうちにもう気にならなくなりましたね。

 ちばてつやさんより評価が高いかもしれないですよ、作家性という意味では。

・でも、逆にいうと、ちばあきおさんは、『キャプテン』と『プレイボール』しか描けなかったともいえますが。

 描き続けていれば、まだ何が出てきたか分かりませんよ。 ずうっと見よう見まねでお兄さんのアシスタントをやっててね。それで、なかなか自分で描かなかった人なんですけど。

・じゃあ、これは編集側から持ちかけたものですか?

 いや、違いますよ。 少女ものでは講談社に読み切りをたまに描いていましたね。 それで、阿部さんという人が、あきおちゃんに非常に長い時間をかけて『校舎裏のイレブン』というのを描かせたんですよ。 月刊で発表したんですが。 で、そのあと月刊の編集者だった谷口くんというのが、あきおちゃんとマンツーマンで、 仕事抜きの付き合いみたいな中で、『キャプテン』が始まるんですよ。

・野球まんがの原点って、これかもしれないですね。 それと読者層が広かった。 親子二代で読んでたというのもあったんじゃないですか。 それと、このまんがにはウソがない。

 何故かっていうとね、あきおちゃんは非常に野球が好きで上手かったんですよ、草野球だけど。 まあ、お兄さんのチームですけどね。 ちばてつやさんは『ちかいの魔球』を描く時、野球を知らないんですよ。 川崎のぼるさんも『巨人の星』描く時、野球を知らなかったし、 中島徳博さんもそう。もちろんあの時代だから、戦後って何もない時代でしょ。 だからプロ野球があって、高校野球があって、知ってはいるけど、あきおちゃんほど自分で野球に熱中してやってたんじゃないわけですよ。 それで、まんがを描かなかきゃってことで、いろいろ勉強するわけですよね。 ちばさんなんか、てっとりばやく自分たちでチームを作って。「ホワイターズ」ってチームで草野球をやってるんだけど、 その中であきおちゃんはアシスタントをしながら、野球は本当に好きでしょうがないっていうことで、 実際に自分でやってたんです。

・絵は上手くないけど、妙なリアリティーがありましたね。

 ちばてつやさんのアシスタントをずーっと続けながら、てつやさんの絵じゃない絵を描くというのは、やっぱりこの人は本物なんですよ。 絵描きとしてもね。

・そういう意味ではオリジナルでしたね。

 たいていはソックリの絵でね、全く同じじゃないにしても、一目で師弟関係がわかるような感じになると思うんだけど、それが全くないからね。

・別に超人が出るわけでもなく、魔球が出るわけでもないんですが、ゲームの単純な組み立てで読ませるというのは、本当に目から鱗でしたね。 珍しいくらいのイノセンス。

 千葉樹之さんていう弟さんがいるんですよ。四人兄弟の一番下の弟。 後半の方になって、ストーリー作りに加わるんです。 「 七三太朗 」ってペンネームで、あきおちゃんの時は名前を出さなかったけど、多のまんがでは結構原作書いてるんです。

・ちばてつやさんは、この頃、あきおさんをどのように評価していたんですか?

 自分と全然違う世界を持っているまんが家として評価していましたよ。 ただ、私生活とか、そういうものに関しては、てつやさんは長男としての、家長としての責任感の強い人だから、 いろいろ注意したり、怒ったりしていたけど、まんがに対しては完全に、 一つの世界を持ったまんが家として、かなり高い評価をしていたと思いますよ。

・仕事場なんかは別々ですか?

 全然、別々です。

・『キャプテン』とか『プレイボール』はあの時期、当然人気一位でしょう?

 そうですね。

・この作品のためだけに買っていた人がいましたよ。そういう人って多かったんじゃないですか。 ちばあきおさんがもしご存命だったとしたら、もしこの後、もう一作描かれたとしたら、野球まんがだったんでしょうか?

 いや、野球まんがは描かなかったかもしれない。

・これはもっと長くしようとかという話はなかったんですか?

 そういう状態じゃなかったですからね。

・長くなりそうな終わり方なんですけどね。『キャプテン』の時に出てきた後輩たちが、みんな同じ高校に入ってくるわけですから。

 それは、主として弟さんが、編集の意向を汲んで、話の展開を考えていたからであって、やっぱり、あのまま描き続けられる状態じゃなかったですね。

著者 西村繁男(にしむらしげお)

1937年東京都生まれ。 早稲田大学第一文学部卒業。 62年、集英社入社。幼年誌、少年誌を経て68年、創刊スタッフとして『少年ジャンプ』編集部へ。 78年から8年間編集長を務め、200万部を435万部にまで伸ばす。 90年、取締役。94年、同社を退く。 著書に『さらば!わが青春の少年ジャンプ』(幻冬舎文庫)、『漫画帝国の崩壊』(ぶんか社)がある。

聞き手 藤脇邦夫(五十五年生まれ) (白夜書房)

(まんが編集術 1999/ 4/25発行 白夜書房)

 京都にある国際マンガミュージアムに2009年5月に行ってきました。そのときに見つけた本の中にちばあきおさんに関することが載っていたので、掲載しました。本の中では4ページほどの文章です。
マンガミュージアムでの係の人との会話
「コピーサービスはやっていないんですか?」
「やってません。」
「文章なんですけど、写真とっていいですか?」
「だめです。」
「コンピュータ(本検索用のWindowsマシン)のワープロ立ち上げていいですか?」
「できません。」
結局、すべて書き写してきました。マンガミュージアム自体は良かったんだけど、サービスに関してはまだまだこれからって感じでした。 (Oz)
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