キャプテン 追悼 ちばあきお先生

いつまでも一緒に歩きたい……

月刊少年ジャンプ編集長 佐藤日出男

ちばあきお先生追悼号特別付録  私は二十数年間、編集という仕事をやってきました。少年誌から始まっていくつかの雑誌、また少年誌と経験してきました。その過去を振り返りますと、ほとんどのことは一過性で、今は忘れてしまったことや、また覚えていても仕様がないことがらです。
 でも逆に、心に深くきざまれた思い出、忘れ得ぬ人との出会いもいくつかあります。ちばあきお先生とは、その最も重要な出会いのひとつでした。
 先生とは個人的な思い出もいろいろとありますが、ここでは編集者の目で″ちばあきお漫画″を語ります。
 先生の作品、『キャプテン』『プレイボール』『ふしぎトーボくん』くやしくも中絶した『チャンプ』そして数かずの中・短編、そのどれもが、ひとことでいえば″ちばあきお流の根性漫画″です。
 この根性漫画の特徴は、ヒーローやヒロインが登場していません。美男子も美少女も縁がありません。もしきみが、とある街角で、ちば先生の作品のキャラクターに出会ったとしたら、きっときみの方が優越感を持ってしまうような、そんな主人公たちなのです。
 作家にとって、この発想上の基本を守るということは実に大変なことです。
 ちば先生のキャラクターは欠点だらけ、人としての弱みをいっぱい持っています。「キャプテン」の谷口は、野球部の補欠選手です。イガラシは、まあなんと短気な少年でしょう。「ふしぎトーボくん」のトーボは、早い話が落ちこぼれ少年です。「チャンプ」の太一は、ダサイなんてものじゃない、山奥出の照れ屋の少年です。
 でも彼らに共通点があります。「オレは天才じゃないんだから、自分自身でコツコツやっていくしかないんだ」という、地味な根性です。でもこの地味さがすごい。作者の実に緻密な真実を見抜く力にもとづいており、読む人の年齢を超えて、すごいリアリティーをもってせまってきます。いつのまにかきみは心を打たれ、力づけられ、一緒に歩き出してしまうのです。編集者も一読者です。私も何度力づけられ歩き出したことでしょう。
あきお先生  こういうすごい洞察力のあるちば先生は、天才だったのでしょうか? いえ、私の知る限りでは、ちば先生は苦しんで苦しみ抜いて洞察し、作品を生み出し続けたのです。自分の作品に一切の妥協を許さない人でした。ちば先生は、人にはとても優しい人でした。でもそれは、本人が一番よく知っている苦しみの実態を相手の中に見たくなかったからなのです。
 今、この苦しみに立ちむかう勇気のある戦士は、はたして何人いることでしょう。身が引き締まる思いでいっぱいです。

「月刊少年ジャンプ特別編集 ちばあきお先生追悼号 ちばあきお チャンプ」(昭和60年1月20日発行)より

 このエッセイおよび画像の資料提供者は谷口希さまです。この場を借りてお礼申し上げます。どうもありがとうございました。m(_ _)m (Oz)
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