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もう七年ほど前になるが、ぼくは失恋したことがある。そんなある日、夜遅くちばあきおさんから電話があった。かなり酔っているようすだった。そして「おれもよう、経験あんだよ。そんなときまいっちゃってなあ。でも、そんなことでクヨクヨしねえで、ガンバレヨ!」レロレロに舌をもつれさせながら、なぐさめてくれたのである。
ぼくは″ああ、やさしい人なんだなあ″と思っていた。しかし、その横に、ぼくにとっても、あきおさんにとっても、共通の悪たれ友だちがいたらしい。あきおさんも、かれらから本宮めが失恋したらしいと聞き「それじゃあ、おれも経験者だから、なぐさめてやる」そういって、電話をくれたのである。
その後、みんなから「おまえは、本宮が失恋して悲しんでいるのに、ワリイヤ」とはやしたらしいのだ。よく日、あきおさんから「夕べは酔っぱらって、ひどいことをいったそうで、なんとも申しわけない」と電話があった。
ぼくは、なにをあやまっているのか、ぜんぜんわからなかった。あきおさんのなぐさめの電話を、うれしく思っていたぼくは、かえって恐縮した。実に心のやさしい人物だ。このときが、ちばあきおさんとの精神のはいった接触の最初であった。
それ以前、ちばあきおは、わが野球チームの、にくたらしい敵だ。ランナーが出ると、かならず打ちやがる、にくたらしい強いバッターだった。現在は、もっとにくたらしい。ゴルフでは、ボロクソにやられっぱなし。どんなプレッシャー(圧迫)がかかろうと、一歩もさがらず、自分のペースをくずさず、結局、最後にぼくは、メタメタにやられている。
あんなにくたらしい男はいない。かれの勝つため、山ごもりしてまで、ゴルフにうちこんだときもあった。こんどこそ、勝てると思って挑戦した。でも、勝てないのだ。
「なに!?ちばあきおの漫画。そんなものは、皆さんがこうして買って読むんだもの、おもしろいにきまってるじゃないですか」
ホント、にくたらしい!!